騎手理論とは
馬にまたがる騎手は人間です。ですから、技量に差があったり得意な条件というのももちろんあります。馬7:騎手3と言われるほど、騎手が占めるウェイトは大きいんですね。どんなに能力のある馬であっても騎手の判断ミスや騎乗ミスがあれば負けてしまう、それが競馬です。騎手の技量を見極めて馬券に活かそうというのが騎手重視理論ですね。
日本のトップジョッキー
現在日本の競馬界でのトップジョッキーと言えば文句なく武豊ですが、彼の成績は突出していて、2005年度は勝率0.248、連対率は0.398という数字がでています。彼はレースに出走したら4回に1回の割合で勝ち、5回に2回の割合で2着以内にくるという破格の成績ですね。これだけいい数値だと「武豊の単勝を買い続けていれば競馬勝てるんじゃないの?」って思ってしまいそうです。4回に1回勝つならば勝ったときの平均オッズが4倍超えてればいいわけですから。
しかし残念ながら、そううまく話が進んでしまうほど競馬は簡単なものではありません。彼の勝利時の平均オッズはわずか2.7倍という数値がでました。これだと買えば買うだけマイナスになってしまいますね。この2.7倍という数値は、それだけ彼の腕がオーナーサイドに信頼されていていい馬が回ってくるということとともに、競馬ファンのみなさんも彼の腕に期待を寄せて馬券を買うためにオッズが下がるという現象を示しています。
それではジョッキーだけで選んで馬券を買うと勝てないかというとそうではありません。前にも書きましたように、ジョッキーによって得意な条件というのがあります。つまりそのジョッキー自体の平均成績よりもいい結果を残している条件ですね。そこに目をつけて予想をするのが騎手理論です。
騎手の得意な条件を把握する
例をあげると、柴田善臣の福島成績。過去5年のトータル成績では3876の騎乗回数で544勝を上げており、勝率約14%という数値がでていますが、福島に限るとその勝率が19%にまで跳ね上がり、複勝率(3着以内)も48.5%とほぼ2回に1回は馬券に絡みます。
一流騎手は逃がすと強い
一流と呼ばれる騎手は、もちろんその技術に定評があります。そして騎手の能力が一番問われるのがペース判断、ペース作りにあると思います。下の表を見てください。
- 単回値=単勝回収値。基準は100円。
- 対象データは、2005年1月5日から2006年5月28日までの全場全レース。
騎手名 | 勝率 | 連対率 | 複勝率 | 単回値 |
---|---|---|---|---|
武豊 | 41.0% | 60.4% | 71.2% | 108円 |
安藤勝己 | 39.1% | 52.2% | 65.2% | 145円 |
岩田康誠 | 34.9% | 51.2% | 58,1% | 238円 |
横山典弘 | 32.2% | 45.5% | 57.9% | 139円 |
福永祐一 | 31.8% | 44.7% | 54.1% | 435円 |
川田将雅 | 31.7% | 41.3% | 50.8% | 420円 |
柴田善臣 | 31.5% | 44.1% | 54.1% | 169円 |
内田博幸 | 31.1% | 48.9% | 60.0% | 144円 |
大野拓弥 | 29.2% | 29.2% | 54.2% | 407円 |
藤田伸二 | 29.1% | 46.8% | 60.8% | 142円 |
これを見ると分かってもらえると思いますが、ここに名前が載っているほとんどは競馬界で一流と呼ばれている騎手たちです。驚くべきはその単回値。全員が100円を超えた数字が記録されています。逃げ馬に一流騎手が騎乗していたら否が応にもマークせざるを得ませんね。
騎手を考慮にいれた展開予想
若干内容は変わってくるかもしれませんが、騎手による展開予想も重要なファクターとなることがあります。武豊がトップジョッキーと言われる所以は、もちろん安定した成績を残すことにあるのですが、その結果をもたらしているのは、彼の卓越したペース判断にあります。見ている側が心配になるほど後方からレースを進めていても、ゴール前ではきっちり差しきるなど、彼にしか出来ない騎乗というのを幾度となく見せ付けられてきました。ただの競馬ファンの我々がみても彼の騎乗はうまいと思うのですから、一緒にレースに騎乗している他のジョッキーは、なおさらそれを肌で感じていることでしょう。
そこでしばしば起こるのが、武豊を皆が意識しすぎるレース展開というものです。特に重賞などの大きいレースで見られがちですが、武豊が後方で待機していた場合、その馬より先に仕掛けるということはかなり度胸のいる騎乗です。勝負どころで、一番ペースを把握していると思われるジョッキーが自分より後ろにいたら、「自分の馬はまだ仕掛けてはいけないのでは?」と不安になりますよね。そうしているうちに、後続の仕掛けが遅れて前残りとなるレースがあるのです。
2006年度日本ダービーにおける展開考察
典型的な例が2006年のメイショウサムソンが勝った日本ダービーです。戦前に、武豊はアドマイヤムーンとアドマイヤメインという2頭の馬に同じ馬主から騎乗依頼が来ていました。実力的にはともにダービーを勝利する可能性があるほどの馬で、どちらも上位人気に支持されました。この2頭は脚質が正反対で、ムーンは差し馬、メインは逃げ馬でした。結局武豊はムーンを選び、メインには柴田善臣が騎乗することになりました。結果から先に言うと、前残りの競馬となり、皐月賞馬メイショウサムソンが2番手から抜け出し、メインは逃げ粘っての2着、ムーンは後方から伸びてきたものの時既に遅く7着に終わりました。
もし仮に、武豊がメインに乗っていたならばどうでしょう。おそらく他のジョッキーはメインをマークした競馬をすることになり、必然的にレースのペースは速くなり、前へ行った馬には苦しい展開になったことでしょう。レース結果はガラリと変わったものになったかもしれませんね。
うまいジョッキーの競馬する位置を考慮にいれ、それによりペースがどのように変化するかを推理するのも騎手(展開予想)理論と言えるかもしれません。