レース展開を考えるということはどういうことなのか

競馬は、ただスタートして、走って、ゴールするだけのものではありません。わずか数分の出来事ですが、その間に、数々のドラマが繰り広げられ、様々な要因がからみつつ結果へと繋がっています。レース中のドラマと、様々な要因をここでは展開とします。

競馬で勝つためには、馬の持っている高い能力と、その能力を最大限生かしきれる展開の利が必要となります。展開の利とは、馬の能力を最大限発揮できる有利なポジションを、最大効率(ロス少なく)で確保できることです。出走各馬がその展開の利を、できるだけ受けようとする結果、必然的に激しいポジションの奪い合いが行われます。この「競馬」に勝つためのポジション争いが、結果としてレースの「展開」という形に表れるのではないでしょうか。ということは、「展開を考える」=「競馬に勝つためのポジション(主導権)の争奪戦を考える」と言えます。また、レース中に繰り広げられる、体をぶつけ合い、しのぎを削りながらの激しい攻防や、騎手同士の駆け引きなどに想像をめぐらすことができるならば、本当の競馬の醍醐味をさらに味わえるでしょう。

競馬の展開をイメージする

競馬の展開をイメージするといっても、普段からレース展開を読むことになれ親しんでいない方に解りづらいと思うので、イメージしやすいように、一つ比較の具体例として人間が走る陸上競技を挙げてみました。

陸上の中距離走の場合

陸上の中距離走は、「陸上の格闘技」としばしば形容されるほどの激しいスポーツ陸上の中距離走は、「陸上の格闘技」としばしば形容されるほどの激しいスポーツです。中距離走においては、スピードを出す瞬発力、そのスピードを維持する持久力、さらに運動を維持するのに必要な高い心肺能力という3つの能力が必要とされ、どれか一つが欠けていただけでも致命傷となります。そして、短距離走とは異なり400メートルトラックをオープンコースで走り、トラックを数周する間に競技を行うため、レース戦略も重要となってきます。世界レベルの大会でも、スタート直後に多くの選手同士が激しくぶつかり合いながら良い位置取りを確保しようとしたり、逆に集団の中に入ってしまいポケット状態になり失速してしまいスパートの時期を逸してしまうといった場合が多く見受けられます。

競馬のレースの場合

競馬は数分間にかずかずのドラマが繰りひろげられている競馬も陸上の中距離走と同じ本質を持っています。一瞬のスピードが問われる瞬発力、MAXスピードを維持するために持久力、さらにレースを走りきるための高い心肺能力、いわゆるスタミナが必要とされ、これが3つ揃っていないと競走馬として活躍できません。そして、スタート直後からオープンコースとなるので、いかに自分に有利な展開に持ち込むかが問われ、レース戦略が重要となります。自分の能力を最大限発揮できるポジションを確保するために、激しい競り合いが繰り広げられ、ポジション争いに敗れて展開が不利に働いた馬は、能力を発揮できずにレースを終えてしまいます。

陸上の中距離走と競馬のレースを比較すると、共通点がとても多いことに気がつきます。競馬のレースは陸上の中距離走と近い競技と言えるでしょう。ということは、競馬も「格闘技」と呼んでしまってもいいかもしれません。

競馬は格闘技

競馬とは、いかに速く走ることができるかのタイムトライアルではありません。他の馬と争い、わずかでも先にゴールを出来るかという競技です。そのため、他の馬よりも有利にレースを運ぶために、道中では激しいポジション争いが繰り広げられます。時には落馬のような危険性を伴うほどの激しいつばぜり合いがそこには存在します。鍛え抜かれた馬同士の競り合いの迫力は、まさに格闘技で呼べる代物です。本気のぶつかり合いだからこそ伝わってくる気迫を感じることが出来ます。

展開を考える=主導権の奪い合いを考える

冒頭で、展開を考えるということは、レースのドラマと様々な要因を考えるということと同意と書きました。レースのドラマと様々な要因は、いかに自分に有利なポジションを奪えるか、つまりいかにレースの主導権を握れるかの争いによって生まれます。

レースは馬の能力だけでは決まらない

レースに勝つには、馬の能力はもちろんですが、展開をいかに有利に運ぶかも重要となってきます。展開を有利に運ぶことのできる力を、ここでは展開力としましょう。馬の能力と展開力を含め、総合的に一番優勢な馬がレースで勝つと考えることができます。

展開力は、レースを有利に運ぶために行われるポジション争いに消費する力の量を基本ポイントとし、それによって得るレースでの有利不利のポイントの和と言えるでしょう。よって、全く無駄な力を消費せずに自分のポジションを確保することができたならば、基本ポイントは-0と言えます。基本ポイントは、いかに力を消費したかの減算方式が当てはまりそうです。式としてまとめると次のようになります。

  • レースに勝つ力=馬の能力+展開力
  • 展開力=(0-ポジション争いに消費するポイント)±有利不利ポイント

主導権(ポジション)争いで消費する力

レースを有利に進めるためには、ライバル馬とのポジション争いを制しなければなりません。できるだけ少ない労力で主導権を握りたいと各馬は考えますが、有利なポジションを確保するのに消費する労力は、ライバル馬の傾向(数と能力)に大きく左右されます。

ポジション争いはグループ単位で行われる

レースでのポジション争いは、各馬が自分以外の全ての馬を相手にするわけではありません。前々で競馬をしたい馬と、後方で脚を溜めたい馬では根本的に有利なポジションが異なります。ポジション争いは、同じあたりの位置で競馬をしたいグループの馬同士で行われます。だからこそ、グループのライバルの数が多いほど競争は激化され、その分他のグループのライバルは数が少なくなるわけですから、他のグループのポジション争いは、比較的楽に制することが出来ると言えるでしょう。

ライバル(同型馬)の数が少なければ消費は少ない
ライバル(同型馬)の数が多ければ消費は大きい

ライバル(同型馬)の能力が低ければ消費は少ない
ライバル(同型馬)の能力が高ければ消費は大きい

同型馬の数

限りある有利なポジションを奪い合うのですから、競合相手は少なければ少ないほど楽に確保ができます。逆に競合相手が多いと、それだけポジション確保に費やす労力は増えると言っていいでしょう。

同型馬の能力

同じポジションの確保を争う競合相手の能力によっても左右されます。競合相手の能力が高ければ高いほど、それを上回るパフォーマンスが必要とされるので、より労力を消費してしまい、競合相手の能力が低いほど、労力を必要とせず、楽に有利なポジションを確保できると言えるでしょう。ここで重要なのは、ポジション争いに必要な能力は、馬の全能力ではなく、ポジション争いに特化した能力であること。トータルの全能力が低くても、ポジション確保能力の高い馬であれば、その馬は強力なライバルということになります。

ポジション争いに消費するポイントは、あくまで投資

何故各馬は、主導権を握るためにポジションの確保を争うかというと、有利なポジションを確保できた時の見返りが、消費したポイントに見合うからです。ポジション争いに消費したポイントを10とすると、10を消費して得た有利ポイントが20であれば、差し引き+10ポイント分有利にレースを運べたと言えるでしょう。主導権争いに対する投資が成功したという結果になります。もしポジション争いをしたくないがために、消費ポイントを0に抑えたとしても、それによって不利ポイントを30背負ってしまったら差し引き-30ポイント。有利にレースを運んだ馬とは致命的な差となってしまいます。

レースの推移

レースを大きく分割すると、序盤・中盤・終盤の3つにわけられます。それぞれ固有の展開が存在します。

レース序盤の展開

出走各馬が、このレースにおいて馬群全体のどのあたりに位置どるかを決めるポジション争いが発生します。前方へ行きたい馬はスタート直後から加速し、真ん中あたりに控える馬は馬なりで追走し、後方から競馬をしたい馬はスピードを落としながら追走します。同じポジションで競馬をしたがる馬が多ければ多いほど、そのポジションの奪い合いは激しくなります。ポジションの奪い合いに敗れた馬はこの時点で不利になっていると言えます。スタートで立ち遅れるなどのアクシンデントがあった場合、思うような位置どりを取れないことが多くなるので、出遅れは致命傷になると言えるでしょう。

レース中盤の展開

スタートで思うようなポジション取りができなかった馬が、直線への攻防に向けて少しでもポジションの修正を行うのがレース中盤です。能力の発揮できないポジションでおとなしくしているよりは、多少強引にでも今よりいいポジションを確保しようとする馬もいれば、逆に無理にポジション取りをしにいくよりも、今いる位置で余計な力を使わずに競馬をしようとする馬もいます。案外そのほうがいい結果につながることもありますが、大抵の馬は、その時点で競馬が出来ていないので馬群に沈みます。

スタート直後のポジション争いを制した馬は、いかに余計な力を使わずに直線へと向けるかが重要になってくるので、折り合いに気をつけて力をためながらレースを進めます。直線へ向けて無理な力を使ってポジション修正する馬に比べて、この時点でかなり有利な展開となっていると言えるでしょう。

レース終盤の展開

最終コーナーから直線へ向けてのコース取りの争いと、スパートするタイミングが重要となるのがレース後半です。馬場の内ラチ沿いを走りたい馬もいれば、誰にも邪魔されない大外を回す馬もいます。直線へ一度出てしまえば、あとは残されている力を振り絞って全力で走るだけなので、その時点でどれだけの余力が残されているかで勝負は決まると言えるでしょう。

道中のポジション争いを早めに制して不利なくレースを進めた馬は、ポジション争いに苦労した馬と比べて余力がかなり残されています。余力が一番残されていて、それを全て発揮できた馬がレースに勝利し、余力が尽きた馬は馬群に沈むでしょう。しかし、せっかく余力が残っていても、直線でも前が塞がるなどというアクシンデントで力を発揮できない場合もあります。

一度決まったポジションは絶対か? 否! 騎手の能力と性格で挽回は可能

展開は、出走メンバーと最初の主導権(ポジション)争いによって大体決まると思われます。そして、一度決まったポジションを覆すのは容易なことではありません。覆すためには、レース序盤のポジション争いに敗れた馬は、なんとかその大勢を捻じ曲げるために、紛れを起こす必要があります。レース終盤に向いてからでは遅いので、レース中盤の間にポジション守勢は行われます。落ち着いていたレースの流れが、不利なポジションを嫌った馬の意識的な修正により乱れると、レースを有利に運べる馬が変化することもあります。そして、その紛れは騎手の判断によって行われます。このことから、騎手の思惑も、展開に影響を与えていると考えられます。レース展開を考えるということは、騎手の思惑を考えるということにも繋がると言えそうです。

「レース展開を考えるということはどういうことなのか」のまとめ

①展開とは、レース中のドラマと様々な要因によって成り立っている
②競馬で勝つためには、馬の能力と、それを活かす展開の利が必要
③展開の利とは、有利なポジションを、最大効率で確保できることを指す
④「展開を考える」=「競馬に勝つための主導権(ポジション)の争奪戦と考える」
⑤展開力を、(有利なポジション) - (主導権を握るのに費やした力)と考える
⑥ポジション争いは全頭単位ではなく、グループ単位(同型)で行われる
⑦ポジション争いに消費する労力は、同型馬の数と能力に左右される
⑧騎手の思惑も、展開に影響を与えるファクターとなりうる

レース展開を考えるということは、馬同士の主導権争いを考えるということと同意という結論がでました。そして、馬同士の主導権争いの鍵を握っていると言えるのが騎手の存在です。騎手の思惑に思慮を巡らせるということも、また、レース展開を考えるということとも言えるでしょう。レース展開とは、出走各馬が、最高のパフォーマンスを引き出そうとするために発生します。直線での派手な争いだけではなく、直線で最高のパフォーマンスを見せるために発生する、道中の目に見えないところでの激しい攻防を考えることにより、より一層競馬を楽しむことができるでしょう。

レース展開を考えるということが、どういうことなのかを掴んだところで、次は展開を読めることのメリットについて考えていきたいと思います。やはりメリットがあるからこそレース展開を読めるようになった方がいいのです。今までレース展開の予想を考慮に入れてこなかった方が、レース展開を考慮に入れた場合、競馬人生が180度逆転するかもしれません。それだけの潜在力は確かにあります。
それでは、具体的に「レース展開を読めるようになることのメリット」を見ていきましょう。

「レース展開を考えるということはどういうことなのか」の関連記事

「レース展開を考えるということはどういうことなのか」の関連リンク


 

Copyrihgt 2005-2006 競馬研究所 All rights reserved.