コース形態による展開への影響

コース形態による差異で展開へ影響を与えるものは、主に直線の長さと、カーブの角度、そして直線の坂の有無があります。

直線の長いコースでは、全馬仕掛けを我慢しがちで、短いコースでは早仕掛けになる傾向があります。カーブの角度は、大回りであればスピードが殺されないので息が入りにくく、小回りであればスピードが殺されるので息がはいりやすくなります。坂の有るコースでは、道中が息の入らないレースであったならば全馬が最後の坂でバッタリと止まるケースが多く、息の入るレースでは先行勢から順に脚が止まる傾向にあります。

 

直線の長さ

競馬場の直線は、最も長い新潟競馬場の外回りの芝コースで659m、最も短い函館競馬場のダートコースで260m(芝は262m)と、約400mもの差があります。サラブレッドがトップスピードで走れる最大距離である3Fが、かたや直線にスッポリ収まるコースと、かたや直線のかなり手前から始まるコースとで、展開に与える影響は全く違います。

  

直線の長いコース

直線の長いコースでは、馬を操る騎手が、どうしても直線の長さを意識した騎乗をします。

先行脚質の馬は、早めに仕掛けることで長い直線で脚が上がるのを嫌って、出来るだけ直線を向くまで仕掛けずに我慢しようとします。

一方の差し脚質の馬も、直線が長い分、早仕掛けをする必要もなく、十分直線勝負で差しきれるという考えが働くので、こちらも先行勢に合わせて脚を溜めます。ここで早仕掛けをする馬は、先行勢にプレッシャーをかけることになるので、先行勢を潰すことは可能になりますが、自分にも長い直線のツケが跳ね返ってきて、結局仕掛けなかった馬の餌食となってしまうので無謀と言えるでしょう。

先行脚質・差し脚質ともに直線に入るまで仕掛けないことが多いので、最後のカーブから直線にかけては一団で回ってくることが多くなります。一団の状態で直線を向くので、必然的に終いの脚に優れている馬が有利となります。差し脚質の馬も、カーブではなく直線を向いてから自らの進路を確保できるので、先行勢に対してそれほどロスはありません。

  

直線の短いコース

直線の短いコースでも、同じように騎手が短い直線を意識した騎乗をします。

先行脚質の馬は、短い直線に向いた時点で既にセーフティリードをとっておきたいという考えが働くので、早仕掛けとなります。

差し脚質の馬は、直線を向く時点では既に先行勢を射程圏内に入れておかなければならないので、必然的にこちらも早仕掛けになります。直線が短いということは、カーブ地点での仕掛けとなるので、直線に比べるとどうしても加速が鈍くなりがちです。そのため、差し馬は先行脚質よりも早いタイミングでの仕掛けを要求されます。

直線の長いコースとは違い、カーブで差し脚質の馬が一斉に仕掛けるとなると、やたらと大外を回すと距離ロスにもなり、それを嫌ってなるべく内を回って仕掛けようとすると、同じ考えの馬が多数いるので十分な進路を確保できない場合があります。そのため、どうしても差し脚質の馬は先行脚質の馬に比べて不利となる条件が多くなり、結果的に先行勢が有利なコースとなるのです。

 

カーブの角度

競馬場によって、カーブの角度が違います。緩やかな角度のコースを大回りとよび、きつい角度のコースを小回りと呼びます。大回りのコースは、角度が緩やかな分直線とそれほど変わらないスピードで走ることが出来ますが、小回りコースでは遠心力が強く働く関係で、体が外にふられ気味になるのを抑えながら走らざるを得ないので、必然的にスピードは殺されます。

  

大回りのコース

大回りは、別名複合カーブとも呼ばれ、複数の直線が集まってそれが全体としてカーブの形をなしているものです。

純粋なカーブではなく、直線を組み合わせた形の大回りのコースでは、小回りに比べてスピードを落とさずに回ってくることが出来ます。スピードを落とさずに回ってこれると言うことは、先行脚質の馬の視点では、息を入れることが出来ないカーブという表現ができ、差し脚質の馬にとっては文字通りスピードを殺さずに回ってこれるカーブという表現が出来ます。

大回りのコースは、東京競馬場やその他外回りのコースに設定されていることが多く、長い直線へと続く場合がほとんどです。先行勢は息を入れることができないまま長い直線を迎え、一方差し馬はスピードを落とさずに長い直線での差し比べに持ち込むことが出来るので、大回り→直線長いコースは差し馬に有利に働くことが多いのです。

大回りコースでは、カーブで息を入れることが出来ないので、小回りコースよりもスタミナの絶対値を要求されやすくなります。そのため、距離に不安がある馬が東京コースで活躍することは滅多にありません

  

小回りのコース

一方、角度が急な分どうしてもスピードが殺されてしまう小回りコースは、逆に言えば息が入るカーブです。コーナーがきつければきついほどスピードが殺され、つまりは息が入りやすくなるので、ペースが落ち着きやすくなります。

小回りコースは、その後直線の短いコースに設定されていることが多く、カーブで息が入りながら短い直線を迎えるということで、どうしても先行脚質の馬が有利となります。差し脚質の馬は、短い直線を意識して早めに仕掛けようとしますが、小回りでは外にふられないように意識しながら加速しなければならず、どうしても思ったような加速が出来ません。

しかし、騎手が先行有利ということを意識しすぎると、小回りでは加速できない分、直線部分で早めに先行勢にプレッシャーをかけることみあり、そうなると全体的にペースが速くなり、先行勢も苦しい競馬を強いられることもあります。

小回りコースでは、カーブのたびに息が入るので、大回りのコースと比べて要求されるスタミナの絶対値が低く、そのため、距離に多少不安がある馬でもあっさりとこなせる場面もよく見受けられます

  

スパイラルカーブ

カーブの入り口は大回りで、出口は小回りという特殊な形をしたカーブをスパイラルカーブと言います。入り口は大回りなので、スピードを殺さずに進入することができ、出口だけが小回りなので、スピードを殺さずに入ってきた馬は外へとふられるので、必然的に馬群がばらけやすくなります。

ローカル競馬場の多くは現在はこのスパイラルカーブを採用しています。ローカル競馬場は直線が短く、コースの幅員が狭いため、最後の直線でコースロスの少ない内側に馬が密集してしまうと、前の馬をさばくのに手間取り、差し脚質の馬に基本的に不利となっています。その結果、先行脚質の馬ばかりで決まってしまうという単調なレースになってしまうため、競走をより多様なものにするのにスパイラルカーブが導入されるようになりました。

差し脚質の馬は、カーブの進入時にスピードを殺さずに回ってこれた上に、直線で馬群がバラけてくれるので、十分短い直線を見据えた早仕掛けが可能となります。しかし、それはあくまで差し脚質の不利な条件が改善されたというだけであり、先行脚質の有利は変わりありません

 

坂の有無

競馬場によって坂のあるコースと平坦なコースがありますが、坂のあるコースでは、上り坂の地点でペースが落ち、下り坂の地点でペースがあがるといった緩急に富んだレースが多くなりがちです。一方の平坦コースでは、坂のあるコースと比べて比較的ワンペースになりやすい特徴があります。

ここで説明する坂の影響は、直線地点に限ることにします。直線以外の坂も条件によっては影響がありますが、最も影響を与えるのは直線に坂があるかどうかだからです。レースで力を使い果たす最後のところで坂があるのとないのでは、馬の末脚に大きな差が発生します。

  

坂が有るコース

最後の力を振り絞るゴール前に、急な上り坂がある場合は、あらかじめそれを計算して競馬をしなければなりません。平坦なコースと同じような競馬をしてしまったら、間違いなく坂で失速し、他馬に飲み込まれてしまいます。

坂のあるコースでは、先行馬は早仕掛けして粘りこもうとすると、坂で一気に失速し、後続の差し馬の格好の餌食になってしまいます。なので、出来るだけ余力を残した状態で坂を迎えるために、仕掛けを遅らせがちになります。

しかし、差し馬からすれば先行馬に早仕掛けさせて坂で止まってもらったほうが都合がいいので、早めにプレッシャーをかける競馬をします。差し馬にプレッシャーをかけられてしまっては、そのまま交わされたら先行馬特有の脆さが出てしまうので、仕方なく先行勢も仕掛けざるをえなくなり、そうなると差し馬に展開が向くことになります。

ただ、上記の場合は、全ての馬に余力があることが前提です。仮に道中差し馬も脚を溜めにくいレースになってしまったら、坂で止まるのは先行脚質の馬だけではなく、差し脚質の馬も同様に止まってしまいます。そうなると、位置取りの差がそのまま出て、先行勢が先着しやすくなります。

結局はペース次第と言えるでしょう。ただ、面白いのは全馬脚が止まるような厳しいレースでは先行勢が、全馬に余力がある状態では差し馬が台頭するという、本来とは逆の結果が発生しやすいということです。

  

坂が無いコース

坂が無いコースでは、どの馬も特に影響を受けることなく、自らの競馬に徹することが出来ます。坂が無いということは、仮に失速気味になってもバッタリと止まってしまうことは無いので、早めに仕掛けた先行勢がなだれ込みやすいと言えますが、逆に差し馬からしても、溜めていた脚を坂で消費することなく突っ込んでこれるので、末脚自慢にも向いていると言え、脚質による展開の有利不利は基本的にないと考えていいでしょう。

「コース形態による展開への影響」まとめ

①コース形態の差で展開に影響が出るのは、直線の長さとカーブの角度と坂の有無である
②直線の長いコースは、一団で直線を迎えることが多く、末脚が優れている馬が有利
③直線の短いコースは、差し馬に不利な条件が重なるので、先行馬が有利
④カーブが大回りで、直線長いコースは差し馬に有利
⑤大回りのコースは、カーブで息が入りにくいので、距離に不安のある馬には厳しい
⑥カーブが小回りで、直線短いコースは先行馬に有利
⑦小回りのコースは、カーブで息が入りやすいので、距離に不安のある馬でもこなしやすい
⑧坂の有るコースでは、余力次第で展開利が変化し、坂の無いコースでは有利不利はない

コース形態による差異で展開へ影響を与えるものは、主に直線の長さと、カーブの角度、そして直線の坂の有無です。

直線の長いコースでは、騎手が長い直線を意識した競馬をするため、先行脚質の馬も差し脚質の馬も仕掛けを遅らせ気味になります。よって、最終コーナーを一団で回ってくるケースが多く、終いの脚に優れた馬が有利となりがちです。

直線の短いコースでは、先行脚質の馬は直線を迎えるまでにセーフティリードを取っておきたいので早仕掛けに、差し馬も直線を迎えるまでに先行勢を射程圏内に入れておかなければならないので、あわせて早仕掛けになります。しかし、差し脚質の馬は先行脚質の馬に比べて不利な条件が多くなるので、先行脚質の馬が有利となります。

カーブが大回りのコースは、カーブをスピードを落とさずに回ることが出来るので、息が入りづらいレースになりがちです。その上、大回りのコースは直線が長く設定されていることが多く、差し脚質の馬に有利となります。

カーブが小回りのコースは、カーブでどうしてもスピードが殺されてしまうので、息を入りやすいレースになりがちです。その上、小回りのコースは直線が短くせっていされていることが多く、先行脚質の馬に有利となります。

カーブの進入時が大回りで、出口が小回りのスパイラルカーブは、スピードを殺さずに回ってこれる上、出口で馬群がバラけやすいので、通常の小回りコースよりは差し脚質の馬は優遇されていますが、直線が短いので結局は先行脚質の有利は変わりません。

坂のあるコースは、全馬に余力がある状態では、後ろからプレッシャーをかけられる差し脚質に有利に働くことがありますが、全馬に余力がほとんどない状態では、差し脚質の馬も坂で先行脚質の馬と同じように脚が上がってしまい、結局は位置取りの差が出てしまいます。結局はペース次第と言えるでしょう。

坂のないコースでは、道中で坂のために脚を温存する必要もないので、どの脚質の馬にも有利不利はないと言えます。

コース形態による展開への影響を見てきました。競馬場ごとの細かな影響は別のところでやることにし、次は騎手の思惑による影響を見ていきます。

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