レース前半の展開の形成

レース前半の展開は、スタート後に大体のレース展開の方向性が決定され、馬群の隊列がまず確定し、その後馬群のペースが確定されます。

馬群の隊列は、ハナ争いが終結するスタート後最初のコーナーまでにほぼ確定します。その後のペース配分が、レース前半の馬群のペースを確定し、ひいてはレース全体のペースを確定させます。

 

スタート

出走馬が全て枠入りし、スタートを切った瞬間が、競馬のレースのスタートであるとともに、レース展開の方向性が決定される瞬間でもあります。

スタート前は、各馬に騎乗している騎手は、全馬が通常にスタートを切った状態での戦略を頭に描いています。あらかじめ、他馬の出遅れを計算に入れている騎手はまずいません。ある1頭が出遅れを喫した時点で、もう展開における「まぎれ」は発生しており、その後の展開にも大きな影響を与えます。その出遅れた馬が、ペースに影響を与える側である存在の、普段先行している馬であればなおさらです。

スタートは、レースにおけるポジション確保に直接繋がる最初の分岐点です。好スタートが切れれば、ポジションを選択する余裕が生まれるので、既に他馬より有利な状態になると言えます。逆に、スタートでの出遅れは、自らの戦法にあった好ポジションの確保が難しくなるので、致命的と言えます。出遅れは、時計的なロスもそうですが、それ以上にポジション面でのロスが大きいと言えます。

 

馬群の隊列確定

スタート後、逃げ馬はハナ争いを展開し、その他の脚質の馬は馬群の中での自らのポジションを確保しにいきます。スタートから、最初のコーナーまでほぼ馬群の隊列が決定されると言えます。カーブではどの馬もスピードを乗せづらいので、ポジションの修正が難しいからです。

    

ハナ争い

馬群の隊列で最初に決定されるのは、先頭集団です。逃げなければ力を発揮できない特性を持つ逃げ馬が、スタート直後にダッシュを利かせ、何が何でもハナを奪いにいくからです。

逃げ馬は、ハナを奪ってこそ能力を発揮するので、他のポジションとは違い、他馬の様子を最初から伺いながら徐々に確保という形にはなりません。ハナを奪ってから先のことは後で考えるというほど、とにかくハナの確保を最優先にします。

ハナ争いというのは、文字通り「競争」なので、相手がいて初めて成り立ちます。ハナを主張する逃げ馬が1頭しかいないことが早めに判明すれば、争いという形にはなりません。その場合、馬群全体の隊列の構成も早めに固まります。

逆に、ハナを主張する逃げ馬が複数おり、どの馬も譲る素振りを見せず、脱落する馬もいない場合は、ハナ争いが終結するのに時間がかかります。しかし、最初のコーナーを迎えてしまえば、それまで互角のハナ争いでも、コーナリングの際に枠順の差が出るので、最終的に内枠の馬がハナを切ることが多くなります。

  

ポジション確保

逃げ馬によるハナ争いが行われている間に、逃げ馬以外の脚質の馬も、それぞれの脚質に合わせたポジションの確保に努めます。見た目は、ハナ争いと比較して熾烈なものには映りませんが、こちらもそれぞれの馬の能力を発揮するためのポジションを奪い合うという意味では、「競争」と呼ぶことができます。ポジションには、馬群における「タテ」の位置と「ヨコ」の位置の2つがあります。

   

タテのポジション

馬群において、先頭からどのくらいの距離があり、馬群全体の中でどのあたりに位置しているかを示すのが、「タテ」のポジションです。一般的に言われている脚質とは、この「タテ」のポジションの馬群における相対的な位置を示すものです。

タテのポジションは、他馬との距離の差を、スタミナの温存度合いによって買うものと言えます。前に行けば行くほど、他馬に対して距離の差における優位を確保できますが、その分スタミナの残量に影響が出て、後ろに控えれば控えるほど、距離の差は開いてしまいますが、その分スタミナの温存が出来ます。

   

ヨコのポジション

馬群における「タテ」のポジションとは関係なく、馬群の内にいるか外にいるかを示すのが、「ヨコ」のポジションです。「タテ」のポジションと比較して、それほど重視されない「ヨコ」のポジションですが、こちらも展開、及びレース結果への影響は多大なものがあります。

馬群の内と外では、それぞれのメリット・デメリットが存在します。馬群の内を通っていれば、距離的な恩恵を受けることができますが、その代わり直線に向いたときに抜け出すスペースの確保が困難になります。場合によっては、最後まで前が開かずに不完全燃焼で終わってしまうこともあります。

逆に、馬群の外を通っていれば、進路についての問題はほぼありませんが、その代わりに道中延々と距離的なロスが生じます。カーブの多いコースでは距離のロスがより増幅されるので、相当能力に差があるか、あるいは馬場差の恩恵がないと苦しいレースになります。「ヨコ」のポジションとは、走行距離と進路の確保をそれぞれ天秤にかけたものと言えます。

 

馬群のペース確定

馬群の隊列が確定した後に、馬群のペースが確定します。レース前半のペースは、ハナ争いが行われるテンで一回、ハナ争い終了後の逃げ馬のペース配分で一回、計二回のポイントで決定されます。

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テン

逃げ馬のハナ争いが熾烈であればあるほど、テンのペースは上がります。ここでペースが上がりすぎると、逃げ馬がスピードに完全に乗ってしまい、ペースを落とすのにも時間がかかることとなり、結果的に完全な前傾ラップを刻むことになってしまいます。

もし逃げ馬が、ペースを一気に落とすことが出来たとしても、トップスピードに近いところからの急激なペースダウン、さらにレース終盤で再びトップスピードへの加速というギアチェンジは、馬にかなりの負担がかかるので、ハナ争いをした馬にはかなり苦しいレースとなります。

ただし、この場合はハナ争いをした馬にだけ負担が集中することとなり、馬群のペース自体が極端なハイペースにはなりません。

  

ハナ争い終了後

ハナ争いによるペースアップは、逃げ馬同士のポジション争いによるものなので、最も影響を受けるのは逃げ馬であり、かつ一時的なものなので、それほど馬群に対する影響が大きいとは言えません。ハナ争いの終了後こそが、レースのペースを占う重要な部分と言えます。

ハナ争いが終結し、馬群の隊列がほぼ決定されると、逃げ馬と先行馬によるペース配分のやりとりが発生します。馬群の先頭を行く逃げ馬にペースの決定権は与えられますが、そのペースに不満を持つ先行馬がいた場合、逃げ馬にプレッシャーをかけることによって、修正することが可能です。逃げ馬の、「逃げなくては能力が発揮できない」という脚質的な特徴を生かした戦術です。

ハナ争い終了後のペース配分によって、レース全体のペースも決定されます。この部分が速くなるようならば、レース全体が前傾ラップとなり、結果的にハイペースに、この部分が遅くなるようならば、レース全体が後傾ラップとなり、結果的にスローペースとなります。

「レース前半の展開の形成」まとめ

①レースがスタートした瞬間に、レース展開の方向性は決定される
②スタート後、各馬がそれぞれのポジションを確保し、馬群の隊列が決定する
③ポジションには、「タテ」と「ヨコ」の2つの要素がある
④馬群の隊列が決定した後、馬群のペースが確定する
⑤馬群のペースは、テンとハナ争い終了後の2箇所で決定される
⑥レース前半のペースを直接左右するのは、ハナ争い終了後のペース配分である

レースのスタートが切られると同時に、レース展開の方向性も決定されます。レース前半の流れは、スタート後、馬群の隊列がまず確定し、その後馬群のペースが確定されます。

スタート後、まずは逃げ馬によるハナ争いが行われ、その後方で他脚質の馬によるポジション確保が行われます。この時のポジションには、馬群における「タテ」の位置と「ヨコ」の位置の両方が重要になります。

「タテ」の位置は、各馬の脚質と大きな関連があり、先頭からの距離と、他馬との位置関係が重要となります。「ヨコ」の位置は、走行距離と進路の確保をそれぞれ天秤にかけたものと言え、「タテ」「ヨコ」ともにレース展開、及びレース結果への影響は大きなものがあります。

馬群の隊列が確定すると、次はペースが確定されます。レースのペースを確定するポイントは、ハナ争いによるものと、ハナ争い終了後のペース配分の2箇所です。

レースのペースを確定する権利を持つのは逃げ馬ですが、そのペースを修正する権利を持つのは先行馬です。ハナ争い終了後のペース配分によって、レース前半のペースは確定され、それはそのままレース全体のペースを決定します。

続いて、レース後半の展開の形成について見ていきます。

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