上がり3Fの重要性

上がり3Fとは、サラブレッドがゴールから逆算して全速力で走ることの出来る最大距離であり、各馬の最大の能力が表れる場所です。そこを分析することによって、各馬の能力を推測することが可能となります。

上がり3Fの数値で逆算してレースが出来るので、上がり3Fの差異は、それぞれの戦法の差異に繋がります。馬の能力を計る指標となるのが、レースの上がり3Fと各馬が繰り出した上がり3Fの比較で、逃げ馬以外は、レースの上がりよりも速い上がりをマークすることが、そのレースでの一定以上の評価に繋がると言えます。

レースにおける上がり3Fの持つ意味

上がり3Fは競馬の予想において、重要なファクターであるとは理解していても、実際に何故重要なのかを深く意識したことのある人は少ないと思います。レースの最後の勝負どころという漠然とした重要性を、もう少し突っ込んでみることによって上がり3Fの持つ意味を理解していきましょう。

  

レースの着順を直接左右する勝負どころ

俗に上がり3Fと言われる部分は、レースにおいて勝負の分かれ目となるラストスパートを争う部分です。ゴール前ではレースに勝利するために、各馬の持ちうる最大限の能力が披露されます。最大限の能力が披露されるということは、そこを分析することで、各馬の能力をおぼろげながら推測出来ると考えられます。だからこそ、上がり3Fは馬の能力を掴むために重要なファクターとなりうるのです。

  

何故3Fなのか

サラブレッドに限らず、哺乳類が全速力で走れる期間は40秒という数字が出ています。この40秒を競馬の距離に換算すると、大体3Fに相当します。上がり3Fというのは、ゴールから逆算して全速力で走ることの出来る最大距離と言えます。競馬には3F以内で行われるレースは存在せず、それ以前に相応の距離を走っているので、40秒丸々全速力というのは不可能ですが、残されている力を絞りきって走るのが、最後の3Fと言えるでしょう。

上がり3Fの数値で逆算してレースが出来る

上がり3Fは、ゴールから逆算して全速力で走ることの出来る最大距離と書きましたが、サラブレッドの全速力には個体差が存在します。スピードの上限が求められる上がり3Fにおいて、その差はそのまま結果に反映されます。各馬のスピード能力を把握することによって、自ずとレース中の戦法が変化してきます。

  

上がり3Fの数値で戦法も変化する

サラブレッドのスピードの上限には個体差があります。以下の2頭を例にとってみましょう。

馬A
上がり3F平均35.0、MAX34.0
馬B
上がり3F平均36.0、MAX35.5

この2頭の能力は、勝つか負けるかは展開一つという非常に接近した実力の持ち主と仮定します。

Aは、Bよりも上がりの平均が1.0秒速く、MAX時は1.5秒速いという裏づけがあるので、残り3F地点でのB馬との差が1.0秒以内ならまず差せるという考えのもとでレースをします。また、仮に1.0秒以上の差をつけられていたとしても、それがスローペースによるもので、MAX時の上がりを繰り出せそうな場合ならば、1.5秒以内の差であれば勝てると計算できます。

一方、Bは上がり3Fにおいては明らかにAより見劣ります。しかし、実力が接近しているということは、上がり3F以外の能力がAよりも秀でているということなので、いかにAよりも前でレースが出来るかにかかっています。残り3F地点で、Aとの差を最低でも1.0秒以上離すことが必要となり、1.5秒以上離していればほぼ安全圏という計算ができます。

スピード能力の絶対値が表れる上がり3Fを比較することにより、各馬が残り3F地点でどのあたりに位置どっていればいいかが浮かび上がります。それはそのまま、各馬の戦法へと繋がるというわけです。

上がり3Fの数値で、馬の余力を推測できる

上がり3Fの数値を分析することで、いかにその馬に余力が残されていたかが推測できます。仮に同じ走破時計で走った馬がいても、上がり3Fの時計次第では、どちらが次走で優秀なパフォーマンスを発揮できるかが分かります。より厳密に把握するためには、レースのラップの上がり3Fと各馬の上がり3Fを照らし合わせて見る必要があります。

  

走破時計が同じでも、上がり3Fで意味が違ってくる

サラブレッドのスピードの上限には個体差があり、上がり3Fにそれが表れると上の項目で書きましたが、上がり3Fには、各馬にどれだけ余力が残されているかも表れます。

同じレースに出走しており、同タイムで入線した下記の2頭の馬がいるとします。

馬C
上がり3F36.0
馬D
上がり3F36.0

これだけしか情報が与えられてなかった場合、上がり3Fも走破時計も同じということで、この2頭は全くの互角なのではないかという単純な推測しか出来ません。

それでは、もし2頭の平均の上がりとMAX上がりが以下の通りだったらどうでしょう。

馬C
上がり3F36.0、平均37.0、MAX36.0
馬D
上がり3F36.0、平均35.0、MAX34.0

一見、Cは能力の最大限を出し切っていながらDと同タイムということは、Dの方が能力上位と考えてしまいがちですが、そうではありません。能力の最大限を出し切っているということは、余力十分で回ってきたと言えるのです。一方のDは、MAXの上がりから2.0秒も遅いぎりぎりの競馬でCと同タイムということは、こちらは一杯一杯のレースをしてきて、なんとかなだれ込んだと考えられます。以上のことから、C>Dという能力比較が出来、次に直接対決した時に利用できるのです。

  

より厳密に見るためには、レースのラップと比較する

各馬がそのレースにおいてどの程度のパフォーマンスが出来たかを確認するには、レース自体の上がり3Fと比較するという手があります。レースのラップは、各ハロン棒通過時点で先頭に立っていた馬の通過タイムをもとに算出するので、逃げ馬は逃げ切らない限りはほぼレースの上がり3Fよりは遅くなってしまいますが、その他の馬にとって一つの指標となるのが、レースの上がりよりも速い上がりを使えたかどうかです。

逃げ以外の戦法で競馬をした馬の場合、それも後方からレースを進めていれば進めているほど、前の馬と比較して余力が残っているはずです。よって、そのレースで通用するだけの実力があるならば、レースの上がりより最低限速い上がりを繰り出していなければなりません。仮に後方から競馬をしていながら、レースの上がりよりも遅い上がりの馬がいたならば、その馬はそのクラスでは厳しいか、あるいは勝ち馬の実力が抜けていたと考えることが出来ます。

上がり3F豆知識

最近の競馬界で、強烈な上がり3Fを叩き出す馬として有名な馬にディープインパクトがいましたが、彼の上がり3Fの最速タイムは、新馬戦で記録した33.1でした。ところで、日本競馬界で最も速い上がり3Fを記録した馬は一体どの馬なのでしょうか?

おそらく、最初に頭を過ぎるのはGⅠ馬の顔ぶれでしょう。しかし、残念ながらGⅠ馬ではありません。GⅠのような華やかな舞台とは遠い、新潟の直線レースでその記録は生まれました。

2003年のアイビスサマーダッシュを制したイルバチオ。その時の上がり3Fのタイムは、31.6という驚異的なものでした。また、同じく新潟の直線レース、2003年の駿風Sで3着に入線したマルターズホークの上がりも、31.6でした。やはり、新潟競馬場の手入れの行き届いた高速馬場と、短距離でのスピード能力を生かしやすい直線競馬だからこそ生まれた記録と言えるでしょう。

「上がり3Fが重要な理由」まとめ

①上がり3Fはレースの着順を直接左右する勝負どころ
②ゴールから逆算して全速力で走ることの出来る最大距離が3Fである
③上がり3Fの数値で逆算して戦法を決めることができる
④上がり3Fの数値で、馬の余力が推測できる
⑤レース自体の上がり3Fより速い上がりを繰り出したかどうかが一つの能力の指標になる
⑥上がり3Fの日本レコードは、新潟の直線レースで記録された31.6である

競馬でよく使われる言葉である上がり3F。上がり3Fと呼ばれる部分は、レースにおいて最後の着順を直接左右する勝負どころであり、馬の最大限の能力が発揮される場所です。そこを分析することで、各馬の能力を推測することが可能となるのです。

馬の最大限の能力が発揮される上がり3Fにおいては、各馬のスピードの上限が試されます。そしてスピードの上限には個体差があります。その個体差をそれぞれが理解した上で、各馬に一番あった戦法をレースで選択します。

また、各馬の上がり3Fの平均値と、実際にそのレースで記録した上がり3Fを比較することで、いかにそのレースにおいて余力があったかを推測できます。上がりの最速値に近ければ近いほど余力があったと考えられ、反対に遠ければ遠いほど、能力を出し尽くしてしまって余力がなかったと考えられます。

各馬がそのレースにおいて一定以上のパフォーマンスを見せたかどうかの指標となるのが、レース自体の上がり3Fとの比較です。レースの上がりよりも速い上がりを繰り出していれば、一定以上の評価ができ、レースの上がりよりも遅い上がりならば、そのクラスにおいて実力上位とは考えづらいです。ただし、逃げ馬に関しては例外です。

第一章、レース展開が生まれる理由について書いてきました。大体基本については抑えることができましたか?次から、展開予想の具体的な要素について触れていくことにします。


 

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