レース展開の基本形

レース展開には、「前残り」「前崩れ」「その他」の3種類があり、これはそれぞれ上位1・2着に入線した馬の脚質によって分類されます。ともに「逃げ」「先行」で決着したレースは「前残り」、ともに「差し」「追い」で決着したレースは「前崩れ」、その他の組み合わせを「その他」とします。

レース展開はペースの影響を受けやすく、スローペースならば「前残り」が発生しやすく、ハイペースならば「前崩れ」が発生しやすいという特徴があります。この前提が覆るときは、馬の能力の特徴によるものと考えられます。レースのタイプ分類と、レース展開の基本形の両方を併用することにより、馬の能力の特徴について言及することも可能となります。

レース展開を1・2着の脚質から分類

レース展開の基本形には、「前残り」「前崩れ」「その他」の3つがあります。それぞれ、レース結果に応じて名づけられています。前に行った馬がそのまま後続とのリードを守ってフィニッシュするのが「前残り」、反対に前に行った馬が完全に失速して後続に飲み込まれるのが「前崩れ」、どちらでもないのが「その他」に該当します。つまり、出走各馬の脚質とレース結果の相関が、レース展開を最も簡単に表すと言えます。

  

脚質の組み合わせと分類

レース展開は、以下の3つに分類されます。

①前残り
逃げ・先行の脚質の馬が、序盤のリードを生かしてそのままゴールすること。後続には出番なし。
②前崩れ
逃げ・先行の脚質の馬が失速し、差し・追い込みの馬が台頭すること。
③その他
逃げ・先行脚質の馬と、差し・追い込み脚質の馬がバランスよく上位争いをすること。

脚質に関しては、脚質と位置取りの分析を参考。1・2着に入線した馬の脚質の組み合わせとレース展開の分類の相関性は以下の通り。

1・2着の脚質の組み合わせと展開分類
1着が逃げ 1着が先行 1着が差し 1着が追い
2着が逃げ 前残り 前残り その他 その他
2着が先行 前残り 前残り その他 その他
2着が差し その他 その他 前崩れ 前崩れ
2着が追い その他 その他 前崩れ 前崩れ

※脚質の決定方法からは、逃げ×逃げの組み合わせは存在しませんが、形式上ここでは容認させて頂きます。

前残り(逃げ・先行の組み合わせ)

「行った行った」とも形容されるレース展開です。文字通り前へ行った馬同士で決着することからこう呼ばれています。

前へ行った馬がそのままなだれ込むレースには、3つのケースが考えられます。最初の2つは、ペースが原因となり起こる「前残り」です。

  • スローペースにより、前の馬の余力が十分にあり、後続の追い上げが届かないケース
  • ハイペースにより前の馬もバテるが、後続も前との差を詰めるために、溜めていた脚をなしくずしに使わされ、結果的に前を交わせないままバテてしまい、前半の位置取りの差がそのまま出てしまうケース

全く違う2つのペースによって同じ展開が起こるというのが、「前残り」の面白いところであり、難しいところでもあります。

もう1つの前残りになるケースは、競馬場の特徴が関与します。

  • 小回りで直線が短い競馬場などの特殊な条件で、後続の追い上げが届かないケース

スローペースの「前残り」

スローペースでの前残りというケースは、競馬に深く精通していない人でも想像できる展開です。レースで前へ行くということは、前半のリードを後半守りきるという意思表示であり、後半の余力があればあるだけ、後続の追い上げを封じることができます。逃げ馬が不在であったり、先行馬の数が少ない時など、スローペースを示唆するメンバー構成であれば、展開を少しでも考慮にいれる人ならばたやすく「前残り」を意識できます。

ハイペースの「前残り」

反対に、競馬のプロでもなかなか予想しづらいのが、ハイペースによる「前残り」です。なぜなら、先入観でもなんでもなく、ハイペースであればあるほど前に行った馬は不利となるので、基本的には正反対の「前崩れ」の展開となるからです。ハイペースによる「前残り」は、特殊な事例と言えます。

ハイペースによる「前残り」は、いくつかの条件を満たしたときに発生します。

  • 前へ行った馬が豊富なスタミナの持ち主であること
  • 後方で待機する差し・追い込み馬が一瞬の脚しか使えない瞬発力タイプであること
  • レースの距離が中・長距離で、スピードだけでは乗り切れないレースであること

ハイペースの競馬を粘るのですから、前へ行く馬には並ではないスタミナが要求されるのは当然のことです。それよりも大事なのが、後方待機組に瞬発力タイプが揃っていることです。瞬発力タイプとは、余力十分の時に決められた距離の間だけ強烈な末脚を発揮する馬です。スプリント能力に長けた馬が多く、一瞬の切れの破壊力は目を見張るものがありますが、その分持続力に欠けることも多いです。

前へ行った馬がハイペースで飛ばすということは、後続との差は大きく開きます。後続が勝つためには、前との差を直線手前で射程距離に入るところまで詰めなければなりません。そのためには、溜めていた脚を本来使いたい地点よりも早い場所で使い出さなければなりません。その分最後の直線の勝負どころで、普段のような切れが発揮できず、差を詰めきることができないという現象が起こります。

この条件からわかるように、ハイペースでの「前残り」が発生するには、馬の能力の特徴が関ってきます。本来前に行った馬に向かないレース展開と、それにピタリと合った馬の能力の両方の条件が満たされたときにのみ発生する特殊条件なので、かなり精度の高い予想が必要とされます。もちろん、どちらか1つが欠けただけで、全く違うレース展開となるのは言うまでもありません。

競馬場の特殊条件で起こる「前残り」

ローカル競馬場に多く見られる特徴である、小回りで直線が短いコースの場合、カーブが急なために加速しづらく、直線手前のカーブで後続勢が前との差をなかなか詰めることが出来ません。前との差が詰まらないまま短い直線を向いたところで、前を差しきることは到底出来ず、前へ行った馬がそのまま残ってしまうというケースです。

前崩れ(差し・追いの組み合わせ)

前残りとは逆に、前へ行った馬が後続勢に完全に捕まってしまう展開のことを、「前崩れ」と呼びます。「前崩れ」が発生するケースには次の2つが考えられます。

  • ハイペースにより前へ行った馬がバテたところを、余力のある後続勢がまとめて差すケース
  • スローペースの瞬発力勝負(ヨーイドン型)になり、瞬発力に秀でた後続勢が、前をまとめて差すケース

ハイペースによる「前崩れ」

スローペースによる「前残り」が想像しやすいのと同意で、ハイペースによる「前崩れ」もいたって想像しやすいものです。ハイペースによるスタミナの浪費が激しく、バテてしまった前の馬を、まだスタミナが残っている後続勢が捕らえることが出来るのは当然です。後続が差すというよりは、前が止まって勝手に落ちていくと言ったほうが正しいかもしれません。

スローペースによる「前崩れ」

2つめのスローペースの瞬発力勝負に関しては、「前崩れ」という言い方に少々語弊が生じるかもしれません。「前崩れ」という言葉からは、前が崩れる、前へ行った馬がバテるという想像をしてしまいがちですが、あくまでここで論じているのは、結果から見た展開の分類であるので、前へ行った馬がバテていなくても、後続勢が台頭したならば「前崩れ」にくくってしまいます。

既に核となる部分に触れていますが、この場合の「前崩れ」は、前の馬が崩れるのではなく、後続勢が前の馬よりも鋭い脚を使うことによる、結果論的な発生と言えます。スローペースがゆえに、前へ行った馬も余力は十分残っていますが、馬の能力の特徴により、瞬発力に長けている馬とそうでない馬がいます。もしも、前へ行った馬の中に瞬発力に長けている馬がいたならば、前崩れとならず、典型的な「前残り」となります。つまり、前へ行った馬よりも、後続勢に瞬発力タイプ馬が多いという条件が、スローペースでの「前崩れ」の発生条件と言えます。

その他(上記以外の組み合わせ)

脚質の組み合わせ上、最も多い展開が「その他」です。最も多い展開であるがゆえに、どのペースでも起こりうるのが「その他」ですが、どのペースでも起こる以上、ケース分類はできないのですが、あえて言うならば、

  • ペースに関わらず能力を発揮することのできる実力馬・あるいは能力を発揮できるペースが限られている特殊な馬がいるケース

でしょうか。どちらにしても、馬の能力が関わってくることになります。スローペースならば前へ行った馬が有利、ハイペースならば後続が有利、ミドルペースならば馬の実力差が最も出るというのは、基本的に変わることのない前提です。この前提に逆らうことが出来るとするならば、馬の能力が高いか、あるいは特殊であるかのどちらかです。

1・2着の着順にこだわらなければ、脚質の分類は以下の4つです。

  • 逃げ×差し
  • 逃げ×追い
  • 先行×差し
  • 先行×追い

スローペース時の「その他」

スローペースは前へ行った馬が有利という原則的な前提では、「逃げ」と「先行」は展開に恵まれての上位争いと言及でき、逆に「差し」と「追い」は、本来不利な展開を打開しての上位争いということで、高い評価を与えることが出来ます。この場合「差し」と「追い」が評価されるのは、元々そのクラスでは総合的に力上位であるか、あるいはスローペースに特に要求される瞬発力が秀でていたかのどちらかといえます。

ハイペース時の「その他」

ハイペースは前へ行った馬が不利という原則的な前提では、「差し」と「追い」は展開に恵まれての上位争いと言及でき、逆に「逃げ」と「先行」は、本来不利な展開を打開しての上位争いということで、高い評価を与えることが出来ます。この場合「逃げ」と「差し」が評価されるのは、元々そのクラスでは総合的に力上位であるか、あるいはハイペースに特に要求される、スタミナと底力が秀でていたかのどちらかといえます。

ミドルペース時の「その他」

最も単純に馬のそのレース条件での力量が問われるのがミドルペースであり、ミドルペースで上位争いをする馬は、脚質の如何を問わず、総合的にそのクラスで力上位と捉えていいでしょう。

「レース展開の基本形」まとめ

①レース展開は、1・2着に入線した馬の脚質で決定される
②レース展開には、「前残り」「前崩れ」「その他」の3種類がある
③「前残り」はスロー時に発生しやすく、ハイでの発生は馬の能力の特徴に依存する
④「前残り」は小回りで直線が短い特徴をもつローカル競馬場でも発生しやすい
⑤「前崩れ」はハイ時に発生しやすく、スローでの発生は馬の能力の特徴に依存する
⑥「その他」は、スローならば先行勢が、ハイならば後続勢の能力上位を示す
⑦「その他」は、ミドルペースならば上位に来た馬の能力が高かったことを示す

レース展開は、上位入線した馬の脚質によって判断できます。先行勢同士で決まったレースは「前残り」、後続勢同士で決まったレースは「前崩れ」、先行勢と後続勢で決まったレースは「その他」と分類できます。

「前残り」、「前崩れ」ともにスロー・ハイのいずれのペースでも発生する可能性がありますが、基本的には「前残り」はスロー時に、「前崩れ」はハイ時に発生しやすく、これが逆のペースで発生した場合は、前提を覆すほどの特徴的な能力を持った馬が存在したという結論が出ます。

「その他」に関しては、どのペースでも発生しますが、スローならば「差し」「追い」脚質の馬が、ハイならば「逃げ」「先行」脚質の馬が能力上位だったことを示します。ミドルならば単純に上位入線した馬の能力上位を示すといえます。

ペースの分類と、レース展開の基本形を併用することによって、馬の能力を言及することも出来るようになります。次は、より細かくレースを分析するために、レースのラップタイムの読み方について考えて生きます。


 

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