馬場状態が展開に与える影響

馬場状態の差異のことをトラックバイアスと呼び、トラックバイアスが顕著になればなるほど、展開への影響も大きくなります。トラックバイアスが発生する原因となるものには、開催の進行と、天候の変化の2つがあります。

基本的には、開催の進行によりトラックバイアスが発生し、開催が進めば進むほどそれは顕著になっていきます。突発的にそのトラックバイアスを無にしてしまうのが、天候不良による馬場悪化です。天候不良による馬場悪化は、馬場全面に影響が出るので、トラックバイアスをフラット化してしまうのです。

 

開催の進行による馬場状態の変化

開催の一番最初の週を開幕週といい、まだ馬が走っていない状態そのままなので、この時が最も馬場状態が良好な時と言えます。開催が進むにつれて馬が集中的に走ったところが掘り返されていき、次第に荒れていきます。すると、馬がなかなか走らない外側が良好な状態が保たれていき、開催後半は外が良く伸びる馬場となります。どの馬も出来るだけ馬場の良好な部分を走りたがるので、展開への影響も前半と後半で変化していきます。

また、芝コースでは、馬が走ることによって次第に芝が剥がれていくので、馬場の悪化が進行しますが、ダートコースでは馬が走った後にローラーをかけて整備されると元通りになるので、開催後半になったからといって、それが原因でトラックバイアスが発生することはありません。なので、ここから先は芝のレースに限定して書いていきます。

  

開催前半

開催の一番最初の週である開幕週は、それまでの開催休みの時にジックリと馬場が整備されているために、全面極めて良好な状態となっています。馬場全体が良好な状態となっているということは、トラックバイアスが存在せず、必然的に最も距離的なロスがないインを通る馬が有利となります。

内を走ることの出来る馬は、元々内枠で、出たなりに内を走ることの出来る馬か、あるいは、「逃げ」なり「追い」なりの極端な脚質を選択して強引に内に潜り込むしかありません。極端な脚質を選択しない外枠の馬は、必然的に外を回さざるを得なくなり、距離的なロスを被り続けます。

また、出走馬のほとんどが出来る限り内を走り続けたがるので、直線を向いてもなかなか内がばらけることはありません。そのため、差し脚質の馬は先行脚質の馬との差を詰めるために、仕方なく外を回さざるを得なくなります。しかし、トラックバイアスが存在しないために、外へ回す分の距離的なロスが発生し、その分先行脚質の馬を捕らえるのが難しくなります。

開幕週で最も有利となるのは、内枠を生かしてそのまま先行出来る馬たちです。直線でも外へ持ち出す必要がないため、最後まで永続的に距離の恩恵を受けながらレースを進めることが出来るからです。トラックバイアスがフラットな場合は、距離の恩恵を受けることのできる内を通れる馬が、最後まで展開の恩恵を受け続けるとも言い換えられます。

  

開催半ば

開催が進んでいくと、馬場状態が内から悪化していき、内と外にトラックバイアスが次第に発生してきます。開催前半のトラックバイアスがない状態では、距離の恩恵を受ける内に馬が殺到するために、内から芝が掘り返されていくためです。

内の馬場が荒れてくると圧倒的に外が有利になるかというと、そうではありません。内には常に距離の恩恵がついて回るので、多少荒れた程度ではそのアドバンテージは崩れません。開催半ばあたりになって、やっと外の不利が少し解消してくるという程度の認識が正しく、内が不利になるとは言えません。

  

開催後半

更に開催が進んでいくと、肉眼でも明らかに確認できるほど内が荒れてきて、内と外のトラックバイアスに大きな差異が出来ます。そうなると、内にデフォルトである距離の恩恵をトラックバイアスの差異が上回って、今度は外が有利となってきます。

開催前半では内枠の馬がそのまま出たなりに内を走れると書きましたが、開催後半にはその権利が外枠に移ります。どの馬も馬場状態の良好な外を走りたいと考えますが、外枠を引いた馬は出たなりに、内枠の馬が今度は極端な脚質を選択しなければ外目を走ることは出来なくなります。

  

移動柵による馬場回復

開催の進行による馬場悪化を食い止めるために存在するのが、内の馬場の悪いところをコースから外してしまう役目を果たす移動柵です。開催前半はほとんどがAコースと呼ばれる、最内まで使用する最も広いコースで競馬が行われますが、内の傷みが目立ってきた場合は、内から数m離れたところに移動柵が移動し、最内がコースから除外されます。

すると、今まで荒れていた最内がコースから外れたために、内から2・3頭分のところが新たに最内として設定されます。元の最内よりは傷みの少ないところが最内に変化するので、内を通る馬にとっては多少良い傾向と言えるでしょう。

しかし、最内よりはマシと言うだけであって、内から2・3頭分のところもかなり掘り返されている可能性が高く、外の馬場の良好さと比較すると雲泥の差です。一気に内が再び有利になると言うようなことはありません。

まれに、東京のように移動柵を5段階で調整できるような広いコースでは、最内から2段階一気に飛ばして移動柵を設置する場合があります。すると、それほど大外とトラックバイアスに差がない部分が最内に設定されるので、内有利が復活する場合もあります。

 

天候不良による一時的な馬場状態の変化

馬場が悪化するもう一つの原因として、雨や雪を伴う天候の悪化があります。雨や雪によって馬場が水分を含み、芝コースは路面が緩くなり、ダートコースでは路面が硬くなります。つまり、芝コースは走りにくくなり、ダートコースは走りやすくなることになります。また、馬場全面の状態が均一化され、トラックバイアスがフラットになります。

  

内と外のトラックバイアスが均一化される

開催の進行によるトラックバイアスが存在したとしても、天候悪化によって、それはほぼフラットになります。馬場全体が水分を含むことによって、開催進行による馬場の悪化よりも馬場の侵食のスピードが速くなるからです。

内と外のトラックバイアスがフラット化することによって、それまでの外有利の状況が一変し、逆に内有利の状況が復活します。内を通る際の距離的な恩恵が、再び強い影響力を持つようになるからです。

また、芝コースに関しては、馬場が水分を含んで緩くなることによって踏ん張りが利きづらくなり、その結果スピードが出にくくなります。そのため、差し脚質の馬は最後の直線でトップスピードに乗せることが難しくなり、先行脚質の馬とそれほど変わらない上がりしか使えなくなります。その結果、差し脚質の馬が追い込んで届かずというシーンがよく見受けられるようになります。

天候不良によってトラックバイアスがフラット化すると、内枠の先行脚質の馬が一気に台頭する下地が出来ることとなります。もし、内枠の先行脚質の馬が台頭しないようならば、それはまだ天候不良による馬場悪化が、開催の進行による馬場悪化を上回ってないということになります。

  

距離によって展開への影響は変化する

天候不良によってトラックバイアスがフラット化すると、内枠の先行脚質の馬が台頭し、差し脚質の馬は末脚が不発に終わりがちになると書きましたが、条件によってはそれが逆転する場合もあります。

その条件とは、距離です。距離が一定以上のレースと、それ以下のレースだと、馬場による展開への影響も一変します。

1998年以降、良馬場の1600m以下の重賞
4角位置 1着 割合 2着 割合 3着 割合 1~3着計 割合
1番手 45 13.80% 44 13.50% 35 10.80% 124 12.70%
2~5番手 166 50.92% 156 47.85% 131 40.43% 453 46.41%
6~10番手 80 24.54% 86 26.38% 95 29.32% 261 26.74%
11番手以下 35 10.74% 40 12.27% 63 19.44% 138 14.14%
トータル 326 100% 326 100% 324 100% 976 100%
1998年以降、稍重以上の1600m以下の重賞
4角位置 1着 割合 2着 割合 3着 割合 1~3着計 割合
1番手 10 19.23% 6 11.54% 2 3.77% 18 11.46%
2~5番手 23 44.23% 20 38.46% 26 49.06% 69 43.95%
6~10番手 13 25.00% 17 32.69% 20 37.74% 50 31.85%
11番手以下 6 11.54% 9 17.31% 5 9.43% 20 12.74%
トータル 52 100% 52 100% 53 100% 157 100%
1998年以降、重以上の1600m以下の重賞
4角位置 1着 割合 2着 割合 3着 割合 1~3着計 割合
1番手 2 11.11% 2 11.11% 0 0.00% 4 7.27%
2~5番手 7 38.89% 4 22.22% 10 52.63% 21 38.18%
6~10番手 6 33.33% 6 33.33% 7 36.84% 19 34.55%
11番手以下 3 16.67% 6 33.33% 2 10.53% 11 20.00%
トータル 18 100% 18 100% 19 100% 55 100%

1~3着の合計の割合の推移を見ていただくと分かるように、馬場の悪化が進めば進むほど、1600m以下の距離では後方待機組の比重が高くなっていきます。逆に、有利となるはずの先行脚質の組の数値は次第に尻すぼみになっていきます。

考えられることは、1600m以下のような短い距離で、求められる能力がスタミナよりもスピードに比重がかかっているレースでは、騎手による馬場が渋ったときの先行有利という思考が強くなりすぎて、スピードに任せて押し切ってしまう競馬を選択しやすいのでしょう。

それが結果的に、レース全体の展開を極端に前傾にしてしまい、最後お釣りが残っておらず、馬場による恩恵以上に自らがハイペースに巻き込まれ末を失ってしまうことに繋がると考えられます。その前傾の展開に後方待機組が便乗して、最後の直線で浮上するのでしょう。

「馬場状態が展開に与える影響」まとめ

①馬場状態の差異のことを、トラックバイアスと呼ぶ
②馬場状態を変化させる原因には、開催の進行と天候の2つがある
③開催前半は、トラックバイアスが存在しないため、内枠の先行馬が有利になる
④開催の進行により内が荒れていくにつれ、徐々に外枠の差し馬が有利になる
⑤移動柵によって荒れた内が馬場から排除されると、再び内枠の先行有利が復活する
⑥天候による馬場悪化は、トラックバイアスの均一化を引き起こし、内枠の先行有利が復活する
⑦マイル以下の距離では、先行脚質よりも差し脚質が天候による馬場変化の恩恵を受ける

馬場の状態の差異のことをトラックバイアスと呼び、トラックバイアスの存在が、展開に影響を与えます。トラックバイアスが発生する原因となるものには、開催の進行と、天候の変化の2つがあります。

開催前半は、馬場状態が全面的に良好なため、トラックバイアスは存在しません。そのため、距離の恩恵を受ける内が有利となり、内のポジションを確保しやすい内枠の先行馬が有利となります。

開催が進むにつれて、内から馬場の傷みが進行し、徐々に外有利のトラックバイアスが発生していきます。内の距離の恩恵を、外有利のトラックバイアスが上回ったときに、内と外の有利不利が逆転します。

移動柵により、馬場の荒れていた内がコースから排除されると、それほど馬場が悪くない部分が最内に新たに設定されるので、内枠の先行馬が再浮上してくる場合もあります。

天候不良により馬場が悪化すると、開催の進行によって発生していたトラックバイアスがフラット化します。また、芝コースは水分を含むことによって路面が柔らかくなるので、差し馬はトップスピードに乗るのが難しくなり、先行脚質の馬の前残りが目立つようになります。

先行脚質有利の条件が唯一裏返るのが、距離がマイル以下のレースです。マイル以下の距離のような、問われる能力がスタミナよりもスピードの比重が大きくなるレースでは、騎手が悪化した馬場での先行有利を意識しすぎて、スピードで押し切ってしまおうとしてしまいがちになり、結果的に前傾ラップのレースが多くなり、後方待機組が浮上します。

馬場状態が展開に与える影響について考えてきました。次は、レース距離が展開に与える影響について考えていきます。

「馬場状態が展開に与える影響」の関連記事

「馬場状態が展開に与える影響」の関連リンク


 

Copyrihgt 2005-2006 競馬研究所 All rights reserved.