なぜ競馬に展開が生まれるのか [基本編・第一章]【競馬研究所】


なぜ競馬に展開が生まれるのか

競馬の展開は、1着をとりたいと思っている馬が複数頭でレースをすることによって生まれます。もし競馬が1頭で行われるのならば、展開が生まれることはなく、2頭以上になって初めて展開が生まれ、それが3頭・4頭・・・と増えていくたびにより複雑な展開が形成され、実際にレースが行われる10頭以上の馬が揃えば、無数の展開の構図が繰り広げられます。

出走各馬は、それぞれが保有する異なる条件に応じてレースでの位置取りを決定するため、総じて馬群はバラバラのように見えます。しかし、各自が最も自分の能力を発揮しうるポジションの確保の結果が、馬群をバラバラにさせているのであり、偶然ではなく必然的に馬群がバラけるのです。そして、各馬が必要とするポジションの確保の具体的な方法が、戦法として現れます。各馬の戦法が全て異なることが、展開を生むといえます。

1着をとりたいと思っている馬が複数頭でレースをする

競馬とは、レースで1着をとることが称賛される競技です。なので、出走する馬は、基本的にはみな、本気で1着を狙いに来ています。本気で1着を狙っている馬が、複数頭で競走をすることにより、お互いの駆け引きの絶対数が増加し、展開を発生させうる様々な要因が誕生すると考えられます。。

もし競馬が1頭で行われるならば

もしも、競馬が複数頭で行われるのではなく、1頭ごとに走るものであったならば、他馬と直接競わないので、タイムトライアルでの争いとなります。他馬と競わないということは、常にマイペースで走ることが出来ます。マイペースならば、自分の走破タイムが1番早くなるであろう地点で自由にスパートができます。

常にマイペースで、自分の最高走破タイムを記録しようとするのならば、スパートする地点は毎回同じとなるでしょう。馬ごとにスパートする地点が毎回一緒となる、つまり、常に決まった走り方に固定されるということです。走り方が常に固定されるのであれば、展開は生まれることはありません。よって、競馬が1頭で行われるのならば、展開は生まれないといえるでしょう。

もし競馬が2頭で行われるならば

もし、競馬が1頭ではなく2頭で行われるのならば、お互いに相手は1頭だけとなるので、1通りの駆け引きが発生します。1頭の時とは違い、相手との駆け引きが存在するので、単純な展開が発生すると言えるでしょう。

2頭でレースをすると、間違いなく後方から追走した馬のほうが有利と言えます。仮に同じ能力の馬が2頭走るとするならば、いかに持てる能力を発揮できたかによって勝敗は決まります。競馬とは、ゴール地点でわずかでも他馬より先にゴールしていれば勝ちなので、後方から追走するほうが、目標をあわせやすく、うまく能力を出し切ることが出来ると言えるでしょう。

しかし、それは一般論であって、相手より前で競馬したほうが力を発揮する馬もいます。どちらにしろ、相手の前につけるか後ろにつけるか、あるいは並んで走るかというポジション選択を迫られるという意味では、2頭でも展開は発生すると言えます。

競馬が16頭で行われるならば

もし競馬が16頭で行われるとするならば、自分以外の15頭を相手にした駆け引きがそれぞれの16頭に発生するので、単純計算で15×16÷2=120通りの駆け引きがそこに存在します。頭数が多くなればなるほど、より駆け引きも複雑化します。駆け引きが複雑化するということは、より展開が複雑化するということです。馬同士の駆け引き以外にも、様々な要因が展開を形成していますが、出走頭数が多いほど、その要因も増加します。よってレースの出走頭数が多ければ多いほど、より複雑なレース展開が発生すると考えられます。

相手との駆け引き

競馬は、いかに相手より先にゴールするかが求められます。相手との後先が重要となるので、常に相手の動向を気にしてなければなりません。そして、その相手の動向を気にしながらレースを進めるのは、他でもない馬に騎乗している騎手です。馬に騎乗している各騎手が、自分の馬の余力と、他馬の余力を計算して、一番勝算が見込めるタイミングでスパートします。その騎手の判断の差によって、スパートのタイミングが馬によってズレが生じます。このズレが、展開展開を生む1つの要因と言えます。相手となる馬が多ければ多いほど、多くの情報を一瞬で処理して、スパートの判断を騎手が迫られることになるので、より複雑な展開が発生すると言えます。

同じ能力なはずなのに、別の位置で競馬をするのは、異なる条件があるからである

競馬は、JRAによる綿密なクラス分けのために、同じような能力の馬がレースをします。同じような能力なのであれば、それぞれが全く同じ走りをして当然と思えますが、実際は各馬がバラバラに走って一つの馬群を形成します。ということは、能力が同じとしても、それぞれが別の異なる条件を保有していると考えられます。その異なる条件の特性によって、レースでの位置が変化してくるのではないでしょうか。

何故同じ能力の馬同士なのに、別の位置で競馬をするか

レースにわざわざ出走してくる馬は、基本的に全馬が勝とうとしているでしょう。そして、勝つために、自分自身が勝てる確率が一番高いレース運びを心がけるはずです。そして、レース中に自らに選択の余地があり、勝てる確率を変動させるものは、レースでの位置取りです。もし自分が勝てるのならば、この位置で競馬をしている時だろうという考えがそれぞれにあるはずです。

それぞれが別の位置で競馬をするのは、その位置で競馬をすることが勝利に繋がるという根拠があるからです。位置の違いは、それぞれの馬が保有しているなんらかの異なる条件によって生まれると考えられます。他の馬とは違う、自らの保有する条件によって競馬をする位置が左右されると言えます。

異なる条件とは

出走各馬が保有している違う条件の中で、レースに影響を与えそうなものは以下の通りです。異なる条件の特性によって、レースでの位置が変動すると言えます。

出走各馬の同じ条件、異なる条件
同じ条件 異なる条件
走るのは全て馬
馬の能力はほぼ同じ
同じ距離・コース・馬場でレースをする
1着をとるためにレースに出走
馬自身の特徴
枠順
騎手
人気

各馬の異なる条件によって、異なる戦法がうまれる

各馬が保有している異なる条件には、プラス材料とマイナス材料が存在します。プラス材料ならばそれを最大限活かし、マイナス材料ならば影響を最小限に食い止めることがレースでの勝利に繋がります。各馬が保有する異なる条件は、そのまま勝つために必要な条件を各馬に課します。その条件をクリアするために各馬に求められるのは、より自分に都合のいいポジションの確保であり、その必要とするポジションを獲得するために具体的な方法こそが、戦法である考えられます。

異なる条件の存在=勝つために必要な条件の違い

異なる条件というからには、各馬にとってにイーブンなものではありません。それぞれにとってプラス材料もあれば、マイナス材料もあります。プラス材料ならばそれを活かし、マイナス材料ならばそれをカバーする走りが必要とされます。

プラス材料を最大限に活かし、マイナス材料の影響を最小限に押さえ込んだ時に、初めてレースでの勝利へと近づきます。活かすべきものと、カバーすべきものが異なるということは、レースでの勝つための条件が異なるということです。プラス材料とマイナス材料の数の分だけ、勝つために必要な条件の数は変わってくると言えます。

勝つために必要な条件によって、戦法が変わってくる

各馬がレースで勝つために必要な条件が違うということは、各々が別々の条件を満たす必要があります。必要な条件を満たすために、走っている馬がレース中に獲得できるものは、ポジションです。レースで勝つためには、各々が保有する勝つための条件を満たすポジションを確保が必要となります。

ポジションによって、それぞれの保有する条件に与える影響は違うと考えられるので、各馬に与えられている条件により、必要なポジションが変わってきます。そして、各馬が必要とするポジションを獲得するための具体的な方法として、戦法と名づけられるものが発生すると言えるでしょう。レースでの位置取りが、そのまま戦法として名づけられたと考えられます。

戦法が異なるからこそ、展開が生まれる

戦法が異なるということは、勝ちパターンが異なるということです。それぞれが、自分の勝ちパターンに持ち込むためには、自分が最大限力を発揮できるポジションの確保が前提となります。そして、各自が必要とするポジションは各々違うので、レースにいってバラバラに走っているように見えるのです。

しかし、バラバラに走っている馬は、全てが自分の必要とするポジションを確保できたかというと、そうではありません。なぜなら、ポジションとは、限られた空間の中で、出走馬同士が奪い合うものだからです。ある馬が必要とするポジションは、他の馬にとっても必要なポジションであるという可能性があるからです。これにより、出走馬同士のポジション争いが発生し、展開が生まれるのです。

戦法が違う=勝ちパターンが違う

たとえ出走馬に多少の能力差があったとしても、同じ馬であることに変わりはありません。馬という生き物は、全速力で走れる距離が決まっていて、だいたい3Fの間しか本当の全力では走れません。この全速力で走れる3Fを、レースのどこに持ってくるかが戦法とも言い換えられるかもしれません。

各馬は保有する異なる条件によって、戦法が変わります。ということは、保有する条件によって、全速力で走れる3Fを持ってくる場所が変わってくるということになります。全速力で走る場所を、レース前半部分に持ってくる馬は一般的に逃げ馬と呼ばれ、後半部分に持ってくる馬は追い込み馬と呼ばれます。逃げ馬は、レース前半で奪ったリードを、ゴールまで粘り通せば勝ち、追い込み馬はその反対の勝ちパターンが存在します。戦法の違いは、そのまま勝ちパターンの違いとなって現れます。

勝ちパターンに持ち込むためには

レースで勝つためには、自分が力を最大限発揮できるポジションの確保が前提となります。しかし、出走頭数が多数の場合、必要とするポジションの重複が必ず発生します。どの馬も、レースで勝つためには必要とするポジションを確保しなければならないので、ポジション争いは熾烈を極めます。そのポジション争いを、出来るだけ少ないダメージで確保できた馬こそが、レースで力を発揮することができ、ひいては上位争いができるのです。

戦法の相違=展開の発生

競馬のレースは、スタートからゴールへ向かって、順を追って発展していくことを言います。そして、レースを発展させるのは、数々のドラマであったり、様々な要因なのです。そのドラマや要因といったものは、出走各馬の戦法が違うことによって生まれます。

1頭で競馬をすると、1通りの戦法しか存在しないために、展開は生まれませんでした。しかし、2頭で競馬をすると、戦法は2通り、3頭ならば3通りという風に、出走頭数の数の分だけ戦法は存在します。その戦法こそ、レースで勝つための他馬との駆け引きが具現化したものと言えます。もし出走全馬が全く同じ走りをしたならば、戦法も1通りしかないため、1頭で競馬をしているのと同じ、ひいては展開も発生しなくなります。全馬がそれぞれ異なる戦法を保有するからこそ、展開は生まれると言えます。

「なぜ競馬に展開が生まれるのか」まとめ

①1着をとりたいと思っている馬が複数頭でレースをするから展開が生まれる
②もしも1頭で走るならば、展開は生まれない
③出走頭数×(出走頭数-1)÷2=展開の数
③同じ能力なのに、別の位置で競馬をするのは、違う条件を保有しているからである
④違う条件には、騎手・人気・枠順・馬自身の特徴がある
⑤異なる条件の違い=勝つために必要な条件の違いである
⑥勝つために必要な条件によって、戦法が変わって来る
⑦各馬の戦法が異なることによって、展開が生まれる

レース展開とは、出走各馬の間に生じる駆け引きによって生まれます。なので、出走馬の数が多ければ多いほど、より複雑な展開が形成されます。もしも、競馬のレースが、複数頭によって争われるという前提を満たしていなければ、展開は生まれないと考えられます。

出走馬は、同じ程度の能力の馬同士がレースをしますが、それぞれが異なる条件を保有してレースをしています。その異なる条件が、各馬の勝つための条件を変化させ、ひいては各々独自の戦法を作り出します。戦法とは、各馬がレースで勝利を上げるための他馬との駆け引きが具現化したものであり、出走馬の数の分だけ存在します。全馬が異なる戦法を保有するからこそ、展開は生まれると考えられます。

レース展開が発生する謎について見てきました。一口に展開と言っても、最初から最後まで一筋のシナリオで流れていくわけではありません。レース中に、いくつものシナリオの枝分かれのポイントがあり、それを繋いでいった結果、最終的に一つの展開が完成し、レース結果として現れてきます。それでは、実際にどのように、レースが展開していくか、レースの流れについて考えていきましょう。


 

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